所蔵文化財ギャラリー

所蔵文化財『漆工品』 一覧(抜粋)

谷家に収蔵される漆芸品の内容は多岐にわたるが、その内容を用途と漆芸技法の二つの面で分類すると下記の表のようになる。なお、ここでは、例えば10客もあるような椀も1件と数えており、個々の点数としてはこれをはるかに超える数になることは、いうまでもない。

表1.用途

仏具 3件
調度類 41件
文房具 13件
飲食器 244件
茶道具 7件
喫煙具 9件
香道具 3件
楽器 15件
化粧道具 12件
装身具 24件
武具 1件
その他 15件
合計 387件

表2.技法

蒔絵 118件
螺鈿 4件
平文 5件
沈金 25件
漆絵 6件
彫漆 10件
箔絵 1件
填漆 1件
漆塗 136件
その他 387件

上記の表1を一覧すればわかるように、作品の種類(用途)としては、膳、椀、重箱、盃などの飲食器が大半を占める。なかでも、冠婚葬祭、四季折々の行事などの際などに用いられたであろう膳椀具が大量に遺っているのが注目される点で、明治時代の人々の暮らし、地方素封家の日常生活のありようを物語る資料として大変に貴重である。

一方、表2では、蒔絵による作品が多数に上っている。ただ、その内容はまさに玉石混淆であって、美術品として展示することが可能な高級品から、消粉(金箔製造の際、余った金を膠で溶き、乾燥させた粉)を用いた簡略なものまで、そこにはかなりの幅がみられる。

沈金で飾られた作品は25件にのぼるが、このなかには素彫(漆膜の表面を彫り込むだけで、金箔、金泥などを沈めない手法)のように、今日ではほとんど見られなくなった技法で装飾したものがある。また、覆紙などに、これらの漆器を納入した輪島の漆器商の屋号がはっきりと記された例も多い。明治時代の輪島における漆器産業の実態、商圏のひろがり、更にそこで造り出されていた漆器の実例を知る上で、これもまた貴重な資料といえる。

谷家収蔵品の大半を占める飲食器、茶道具、喫煙具、調度などは、日常生活に用いられた器物であり、一種の消耗品である。文字通り、損耗すれば廃棄される運命にあったわけで、全国的にみても残存する例は誠に少ない。更にこれらの大部分については箱書などによって所有者と、使われていた時期が判明する。わが国近代の生活史を辿る上で重要な資料である。

飲食器に限らず、谷家に伝来した漆器は、日常品の趣が濃く、そのためかなり地味な印象を受ける、しかし、上記のように、そこには過去からの重要なメッセージが含まれており、例えば、展示施設などで用いる場合にも、観覧者にアピールする効果的な陳列が可能である。繰り返しになるが、これだけの大量の器物がまとまって存在するのは希有のことであり、今後、必要な部分については修復なども行いつつ、維持保存されていくことが望ましい。

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